ソーシャル・ディスタンシング(感染予防戦略を示す言葉で、“感染拡大を防ぐために物理的な距離をとる”という意味)は感染拡大のリスクを抑える為には不可欠です。しかしながら、現在のように先行きが不透明な状況下において、周囲との距離をとることによる心理的影響にも、充分な配慮が重要です。

新型コロナウイルス(COVID-19)の発生により、世界の多くの国々においてはウイルス感染予防対策の一環として、自己隔離を要請しています。しかし、ソーシャル・ディスタンシングのための自宅待機や指定施設においての自己隔離によって、不便や不自由を感じることも少なくありません。そして、そのような状況下における心理的影響として、怒り、不安、抑うつ、不眠、心的外傷ストレス障害(PTSD)などがあることが示唆されています(Brooks et al., 2020)。

現在の状況においては、以下を含む感情を経験することが考えられます:

  • 感染することへの恐怖
  • 感染させることへの恐怖
  • 感染させたことへの罪悪感
  • 自己隔離による孤独感
  • 正確な情報の不足による不安
  • 金銭的損失への恐怖
  • 仕事を失うことへの恐怖
  • 自宅待機による倦怠感
  • 新しいルールや規制に対する苛々
  • 周囲からの偏見や拒絶による傷心
  • ケアラー(親など)としてのストレス

自己隔離による心理的影響を調査した研究結果も数多くあります。例えば、自己隔離の環境にいた子供と親のPTSD症状と、その環境になかった子供と親のそれとを比較した研究では、自己隔離環境にいた子供のPTSDスコアが4倍であったとの結果が示されました(Sprang & Silman, 2013)。また、Jeong et al.,(2016)の研究では、過去に精神疾患を経験した人には、自己隔離後4~6ヶ月期間の不安や怒りなどの症状に関係性があることが報告されています。

私たち人間は社会的動物であることから、自然と他者との接触を求め、思いやり、そして気遣い合うことを求める傾向にあります。このことから、自己隔離が求められる現在のような状況下において、他者との接触を断たれることで、互いに思いやり気遣うという機会が減少し、心身ともに元気のない状態になるのは自然なことだと言えます。このような時、孤独感と比較的じょうずに付き合うことができる人もいれば、そうでない人もいます。そうでない人の中には不安や抑うつなどといった精神衛生上の問題を経験し、臨床的な対応が必要となる人もいるかもしれません。又、自分自身の心身のケアのみならず、子供や高齢者など他者をケアする必要性がある場合、それがたとえ ‘やりがい’ のあることであったとしても、ストレスになることもあるかもしれません。

それでは、現在のような状況下において、心理的負担を軽減するためにはどのような対処が重要なのでしょうか。過去の研究結果からは以下のような対処法が効果的であると導き出されています:

  • 自己隔離の期間を最低限に抑える…隔離の期間を可能な範囲で短縮することにより、心理的負担を最小限に抑えることができるとされています。しかし現在のような状況では、自分自身そして周囲への感染を防ぐことが最優先であることを考慮した上での自己隔離期間の設定が重要です。
  • 情報の共有…感染すること、そして感染させることへの恐怖心の原因の一つは、情報の共有が十分でない、ということが考えられます。それらの恐怖心を和らげるためには、感染病に関する適切な知識を得ること、自己隔離が必要である理由を正しく理解することが重要です。
  • 家族、友人、その他のサポートネットワークとのコミュニケーション…電話やコンピュータなどの電子機器、およびソーシャルメディアを上手に活用することで、離れた場所にいる家族や友人、そしてメンタルヘルスの専門家との程よいコミュニケーションを心がけてください。私たち自身そして相手の孤独感などといった心理的負担を軽減することにつながります。
  • 利他性、共感性、向社会的行動…大切な誰かに限らず、他者のことを気に掛け自己隔離に取り組み、苦しい立場にある誰かを気遣うことが、私たち自身が難しい環境のなか前進する力につながります。短い電話1本、メール1通。たとえ僅かであっても、思いやりのある心は必ず誰かの力になります。


最後に、決して忘れないでください。どんなに些細だと思えることであっても、必要な時に助けを求めることに、罪悪感や恥ずかしさを感じないでください。ソーシャル・ディスタンシングが求められるなか、いつもと同じかたちで家族や友人たちと繋がるのは安易ではないかもしれませんが、ネット環境やSNSなどを活用して、大切な人たちに声を掛けてください。そして必要な際には躊躇せず、電話やオンラインでのサービスを提供しているメンタルヘルスの専門家に相談をしてください。

Tokyo Mental Health では電話オンラインでのメンタルヘルスサービスも提供しています。


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Yu Yamamoto, M.Sc.
Yu Yamamoto completed a Masters in Science (MSc.) degree in Psychology from Maastricht University in the Netherlands. Yu previously worked as a researcher at a research institute in Japan, with her main research focus on the development of prosocial behaviour and empathy particularly during the developmental periods of childhood and adolescence.

Yu provides psychological evaluation services to children, adolescents, and adults in both English and Japanese, using a diverse range of assessment tools that are available at Tokyo Mental Health.